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東京高等裁判所 昭和55年(ラ)364号 決定 1980年8月21日

抗告人 末野悌六

右申立代理人弁護士 岩田満夫

同 本間崇

同 吉沢敬夫

相手方 鹿児島県

右代表者知事 鎌田要人

右相手方代理人弁護士 松村仲之助

主文

原決定を取り消す。

本件移送の申立を却下する。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙抗告状(写)記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  本件本案訴訟は、不法行為に基づく損害賠償請求であり、その請求原因の要旨は、抗告人(原告)が、鹿児島県大島郡三島村硫黄島内において有していた租鉱権に基づき、オパール質珪石の採掘及び販売の事業を営んでいたところ、相手方(被告)が同島港湾内に防波堤を築造した結果、抗告人は、右事業を継続することが不可能となって多大の損害を被ったから、相手方に対し、右損害の賠償として一億円の支払を求めるというものである。

2  右本案訴訟の請求原因事実については、抗告人が立証責任を負うことはいうまでもないところ、抗告人の主張によると、右請求原因事実を立証するため抗告人が予定している証拠方法は、人証としては、東京都内に在住する証人五名、愛知県と三重県に各在住の証人各一名、千葉県に居住する抗告人本人に止まり、また、前示硫黄島における現場検証は予定していないというのである。他方、相手方は、反証のための証拠方法として、前示硫黄島の現場検証と鹿児島県在住の証人四名を予定している旨主張するが、記録を検討しても現段階においてこれらの取調をする必要があるとは認め難い。

そうであるとすれば、相手方が、証人の殆んどが九州在住の者であるはずであり、また、前示硫黄島の現場検証も必要不可欠であるとして民訴法三一条に基づいてした本件移送の申立は理由のないことが明らかであるから、右主張を易く容れてこれを認容した原決定は、違法なものというべきである。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 杉本良吉 裁判官 三好達 柴田保幸)

<以下省略>

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